物語
奈良の大和盆地に1902年に生まれた住井すゑさんが、多感な少女時代を戦前に過ごし、優れた文才を発揮しながら16才で上京し、俊英なる女性記者として活躍を始め、やがて、戦争という苦難の時代に、農民文学作家の犬田卯(しげる)と結婚、病弱な夫を支えつつ4人の子どもを育てながら、児童文学や農民文学を次々と発表していくたくましい歩みを描いています。映画化された住井作品の貴重な場面も幾つか登場します。
また、大河小説「橋のない川」の長年に渡る執筆の中で、出会いと交流のあった文化人や、育て上げた息子・娘に、インタビューを行ない、思い出の数々や印象深い言葉など心あたたまる敬慕の辞を引き出し、住井さんの人物像を多彩な角度から掘り下げています。
圧巻は、講演会での住井さんの縦横無尽な語り口です。90才とは思えぬ力強い、しかもセンスとユーモアあふれる口調で、人権・平等・平和について、豊かで深遠な哲学と思想にもとづき、熱烈に語っている内容は、見る者の胸を改めて強く揺さぶります。
この記録映画は、20世紀を生きながら、人間と歴史を壮大な視野で見つめて、その思いを大河小説「橋のない川」に綴ってきた、偉大な文学者・思想家である住井すゑさんの、21世紀に遺した重要なメッセージと言えるでしょう。